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東京地方裁判所 平成7年(ワ)5420号 判決

甲、乙事件原告

株式会社X

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

河鰭誠貴

財津守正

甲事件訴訟代理人弁護士

飯田修

甲事件訴訟復代理人兼

乙事件訴訟代理人弁護士

細貝巌

野中智子

右甲事件訴訟復代理人弁護士

村田晃一

三村祐一

甲事件被告

Y1

右訴訟代理人弁護士

稲井孝之

乙事件被告

株式会社ワイ・エス・ケイ

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

神毅

主文

一  甲事件被告Y1は、原告に対し、一億〇五三六万五三八四円及びこれに対する平成七年一月一日から年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告株式会社ワイ・エス・ケイは、原告に対し、一億〇四八三万四六二二円及びこれに対する平成七年一月一日から年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じて、両事件被告の負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

甲事件被告及び乙事件被告は、原告に対し、各自一億一五三六万五三八四円及びこれに対する平成七年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

(1)  原告は、いわゆる任意整理を行うに当たり、主要債権者の同意の下に、甲事件被告(以下「被告Y1」という。)又は乙事件被告(以下「被告会社」という。)のいずれかに売掛金等の債権の回収、一般債権者に対する配当等を行うことを委任したが、被告Y1又は被告会社(右両被告のうち右事務を委任されたと認められる被告)は、原告のために売掛金等を回収するなどして受領した四億〇六九五万〇〇六四円から、原告が委任の趣旨に従った正当な支出に当たることを認める二億九一五八万四六八〇円を控除した一億一五三六万五三八四円につき、民法六四六条に基づき返還する義務があると主張して、両被告に対し、その返還を求めるとともに、(2) 被告Y1は、原告のために売掛金等を回収するなどして受領した金員を預かり保管中、当時、被告Y1が代表者取締役の地位にあった被告会社のために、三億九三八二万八九四九円をその運転資金として流用したが、被告会社は、原告がこれにより被った損害のうち、二億〇七七一万五三七八円を補填したにとどまると主張して、両被告に対し、共同不法行為に基づく損害賠償として、右流用金額と損害補填額との差額のうち、一億一五三六万五三八四円を連帯して支払うことを求める事件である。

一  請求原因

(受任者に対する受取物等の返還請求)

1 原告は、平成四年三月三一日、手形不渡りを出し、主要債権者の同意の下に、いわゆる任意整理を行うこととなり、同年四月四日に開催された第一回債権者委員会において、被告Y1又は被告会社が債権者委員長に選任された。

2 原告は、被告Y1又は被告会社に対し、原告の債務を整理することを目的として、原告の有する債権の回収及び一般債権者に対する配当等(以下「本件債権回収等」という。)を委任し、被告Y1又は被告会社は、これを承諾した。

3 被告Y1又は被告会社は、平成六年一二月三一日、債権者委員会で決定された配分方法に従って、一般債権者に対する配当(弁済)を終え、委任事務の処理を終えたので、原告との間の委任契約は終了した。

4 被告Y1又は被告会社は、右委任事務の処理に当たって、(一)記載のとおり、原告が有する売掛金債権を回収するなどして合計四億〇六九五万〇〇六四円を受領し、その中から(二)記載のとおり合計二億九一五八万四六八〇円を債権者に対する配当等のために正当に支出したので、その差額一億一五三六万五三八四円を原告に返還する義務がある。

(一) 債権の回収等による収入

合計 四億〇六九五万〇〇六四円

(1)  大東銀行東京支店の株式会社X債権者委員長Y1名義の普通預金口座(口座番号〈省略〉)(以下「債権者委員長口座」という。)に入金された金員(ただし、(2)を除く。)三億二一五二万〇四八五円

(2)  C弁護士による債権回収額

平成四年八月二六日  四六三万二二一九円

同年九月二八日    三三五万一四〇七円

同年一〇月八日    八五二万二〇三八円

同年一〇月二〇日   八四五万〇六三一円

同年一二月九日   一二四九万二七八〇円

平成五年二月二六日 二二二三万二九四四円

同年一一月二日   一二九六万七五六〇円

(3)  平成四年五月七日から平成五年五月一日までの間に原告が自ら売掛金債権の回収を行うなどして被告Y1に持参して交付した金員 一二〇〇万円

(4)  被告Y1又は被告会社から河鰭誠貴弁護士対し、配当金として預託された金員のうち、配当が実施されずに返還された金員(日本商工ファクター株式会社に対する配当金相当額) 七八万円

(二) 債権者に対する配当等の正当な支出

合計 二億九一五八万四六八〇円

(1)  一般債権者に対する配当金

平成五年二月一七日 四八六万六四〇〇円

同年三月一五日  一三七三万二八一八円

同年五月二〇日  六八一七万〇二七〇円

(2)  河鰭弁護士に対する支払手数料

平成五年二月一七日  二四万四三二〇円

同年三月一五日    四一万一九八四円

同年五月二〇日   二〇四万五一〇八円

(3)  D1商店ことDに対する支払額  五〇〇万円

(4)  債権者委員会会議費          五〇万円

(5)  C弁護士に対する支払手数料    二〇〇万円

(6)  公正証書作成協力会社に対する配当金 五〇六三円

(7)  住金物産株式会社に対する配当金     一億円

(8)  原告に対する支払額

平成五年八月二三日    三七五〇万円

同年一一月二日   六四八万三七八〇円

5 よって、原告は、被告Y1又は被告会社に対し、民法六四六条に基づき、4の(一)と(二)との差額である一億一五三六万五三八四円の支払を求める。

(不法行為に基づく損害賠償請求)

6 被告Y1は、原告のために債権者委員長口座を管理していたが、右口座から平成四年四月三〇日から平成五年五月一二日までの間に、別表≪省略≫記載のとおり、合計四億〇八五八万九四八七円が払い出された。

7 右6記載のとおり債権者委員長口座から払い出された金員のうち、別表進行番号52、53、57、58、63及び64の「CDシハライ」欄又は「その他」欄記載の合計一四七六万〇五三八円は、原告のために正当に払い出されたものと認められるが、被告Y1は、(一)から(三)記載のとおり、その余の三億九三八二万八九四九円を被告会社の運転資金として流用し、被告会社のために右同額を横領した。

そして、右流用がされた当時、被告Y1は被告会社の代表取締役の地位にあったから、被告会社は、情を知って右金員の流用を受けたものというべきであり、被告Y1と共同不法行為責任を免れない。

(一) 被告Y1は、別表進行番号2、5、18、21、22、23、26、37、54及び56の「フリコミ」欄記載の金員合計一億六四〇〇万円を、同表「備考欄」記載のとおり、債権者委員長口座から被告会社の銀行預金口座に振り込み、これを被告会社の運転資金として流用し、これを横領した。

(二) 被告Y1は、債権者委員長口座から、同表進行番号1、3、4、6、7、8、9、15、16、17、19、20、24、25、27、28、30、33、38、39、40、44、46、47及び55の「CDシハライ」欄又は「その他」欄記載の金員の払出しを受け、その全部又は一部を、同表「備考欄」記載のとおり被告会社の銀行預金口座に入金し、合計一億六二五五万円を被告会社の運転資金として流用し、これを横領した。

(三) 右(一)及び(二)のとおり、債権者委員長口座から被告会社の銀行預金口座への振込み又は債権者委員長口座から払い出された金員の被告会社の銀行口座への入金が明らかな金額は、合計三億二六五五万円であるが、債権者委員長口座から払い出された合計四億〇八五八万九四八七円から、原告のために正当に払い出されたものと認められる別表進行番号52、53、57、58、63及び64の「CDシハライ」欄又は「その他」欄記載の合計一四七六万〇五三八円並びに右(一)及び(二)の合計三億二六五五万円を控除した使途不明金六七二七万八九四九円についても、被告Y1が、被告会社の運転資金に流用し、横領したものと推認すべきである。

8 被告Y1は、次のとおり、被告会社から被告Y1に対して支払われた金員等のうち、次の(一)から(三)の合計二億〇七七一万五三七八円を原告のために用いたので、これによって、7の(一)から(三)の横領による損害のうち、二億〇七七一万五三七八円が填補されたものと認め、これを被告らの横領による損害額から控除すると、原告の損害額は一億八六一一万三五七一円となる。

(一) 被告Y1は、平成五年五月一七日、被告会社が三菱銀行秋葉原支店の被告Y1の普通預金口座に入金した一億円のうち七〇二一万五三七八円を、同月二〇日に実施された原告の一般債権者に対する第三回配当及び同日の河鰭弁護士に対する支払手数料に当てた。

(二) 被告Y1は、平成五年九月一六日、被告会社が振り出した約束手形四通、額面合計三七五〇万円を原告に交付し、被告会社は、その出捐により、右約束手形を決済した。

(三) 被告Y1は、平成六年一〇月二五日、被告会社が振り出した額面八六〇〇円の約束手形一通及びゴルフ会員権一四〇〇万円相当を、原告の住金物産株式会社に対する配当金一億円の支払に当てた。

9 よって、原告は、被告らに対し、その共同不法行為による損害のうち、一億一五三六万五三八四円の支払を求める。

二 被告Y1の認否及び反論

1 請求原因1及び2の事実は認める。

2 同3の事実中、平成六年一二月三一日、被告Y1が、債権者委員会が決定した配分方法に従った配当を行った事実は認めるが、原告との間の委任契約が終了した事実は否認する。

右配当の実施に当たり、残債権の放棄を拒否した債権者もおり、また、住金物産株式会社に対する配当については、後記3の(二)の(1)記載のとおり、今後の推移を見守る必要がある。

3(一) 同4の(一)の事実は否認する。

被告Y1が、原告のために回収した金員は、二億八五〇一万一六〇四円である。

(二) 同4の(二)の(1)から(8)の支払のほかに、被告Y1は、本件債権回収等の事務を行うために、次の(1)から(7)の支出をし、又は支出をする必要がある。

(1)  住金物産株式会社に対する未払金 三一五三万八七八三円

住金物産の債権者委員会への届出債権額は一八億七九一二万五四七六円であり、債権者委員会が決定した配分方法によれば住金物産に対して配当すべき金員は一億三一五三万八七八三円となる。被告Y1は、住金物産に対し、原告を代理して、一億円の弁済(一部は代物弁済)を行ったが、その際の約定によれば、住金物産は、原告の日本鋼材加工センター株式会社に対する債権二九八六万七一一六円につき債権仮差押命令を得ているが、その取立てができなかった場合には、原告は、住金物産に対し、更に三一五三万八七八三円を支払うこととされており、右未払金は、被告Y1が原告に返還すべき金額から控除すべきである。

(2)  債権者Dに対する追加配当金      六〇〇万円

(3)  被告Y1の報酬         四四五九万三七八〇円

原告会社の代表者であるAは、被告Y1に対し、(1) 平成五年五月二〇日現在における債権回収額の一〇パーセントに相当する三八一一万円と、(2) C弁護士が平成五年一一月二日に債権者委員長口座に入金した一二九六万七五六〇円の半額に相当する六四八万三七八〇円を、被告Y1に対する報酬として支払うことを合意した。

(4)  事務所家賃            六八七万五七一二円

被告Y1は、原告の債権者委員会の事務を行うために、被告会社が賃借中であった東京都千代田区〈以下省略〉所在の中尾ビルの一室を平成四年四月から平成六年二月まで使用した。右事務所の賃料は、一か月二九万八九四四円である。

(5)  事務所内装費用               六六万円

(6)  事務所原状回復費用         三一万三七五八円

(7)  債権者委員会の会合費その他雑費 一一一四万七〇〇九円

4 請求原因6から9についての認否及び反論は、被告会社の主張を援用する。

三 被告会社の認否及び反論

1  請求原因1から5について

被告会社が、原告から本件債権回収を委任された事実及び右委任事務の処理に当たって請求原因4記載の金員を受領した事実は否認する。

原告の債権者委員長に選任されて、本件債権回収等を委任されていたのは、被告Y1個人であり、被告会社ではない。したがって、原告は、被告会社に対して、民法六四六条に基づき、受取物等の返還を請求をすることはできない。

2  請求原因6から9について

(一) 債権者委員長口座から別表進行番号1から65記載のとおりの金員が払い出されたこと、被告の銀行預金口座に同表備考欄記載のとおりの入金があったことは認める。

しかし、① 債権者委員長口座から被告の銀行預金口座への振込みが認められるのは、同表認否欄に○を付した合計一億六四〇〇万円であり、② 債権者委員長口座から金員が払い出された日、払出金額、被告会社の銀行預金口座への入金日、入金額の対比からみて、債権者委員長口座から払い出された金員の全部又は一部が被告会社の銀行預金口座に入金された可能性を否定できないものは、同表認否欄に△を付した入金にすぎない。③ 同表認否欄に×を付した入金については、債権者委員長口座からの金員の払出しと被告会社の銀行預金口座への入金には何の関係もないものというべきであるし、④ 原告が使途不明金と称する六七二七万八九四九円が被告会社のために流用されたことをうかがわせる事実は全くない。

(二) 仮に、債権者委員長口座から被告会社の銀行預金口座に振込みがされ、又は債権者委員長口座から払い出された金員のうちの一部が被告会社の銀行預金口座に入金された事実があるとしても、被告会社は、これを被告Y1からの仮受金として経理処理しているのであって、被告会社には不法領得の意思はない。

(三) 被告会社は、次(1)から(4)記載のとおり、合計二億八五〇〇万円を被告Y1を通じて原告に支払った。

(1)  平成五年四月二七日、被告Y1の普通預金口座に債権者委員会のために用いるために必要な金員五〇〇〇万円を入金した。

(2)  同年五月一七日、同じく、被告Y1の普通預金口座に一億円を入金した。

(3)  同年九月一六日、約束手形四通、額面合計三七五〇万円を原告に交付し、かつ、これを被告会社の出捐により決済した。

(4)  平成六年一〇月五日、原告の住金物産に対する債務の弁済として一億円相当を出捐した。

第三争点に対する判断

(受任者に対する受取物等の返還請求について)

一  原告から本件債権回収等の委任を受けたのは、被告Y1か、被告会社か。

1 被告Y1が、原告の債権者委員長として、原告から本件債権回収等の委任を受けた事実は、原告と同被告との間において争いがない。

2 原告は、被告会社に本件債権回収等を委任した旨をも主張するので、この主張が認められるか否かについて検討する。

本件全証拠を精査しても、原告が、被告会社に本件債権回収等を委任したと認めるに足りる証拠はない。

かえって、(1) 右1に説示したように、原告と被告Y1との間においては、同被告が本件債権回収等の委任を受けた事実に争いがない上、(2) 原告は、被告Y1に本件債権回収等を委任したと主張して訴え(平成七年(ワ)第七四二〇号事件)を提起してから、およそ二年を経過した後になってから、被告会社に対して本件債権回収等を委任した旨の主張を記載した準備書面を当裁判所に提出して、その旨の主張を始めているのであって、このことからすると、原告代表者は、被告Y1個人に本件債権回収等を委任したと認識していたことがうかがわれる。(3) 他方、被告Y1においても、個人として原告の債権者委員長を引き受けたと認識しており(被告Y1本人尋問の結果)、(4) 原告のために回収された金員を入金するため開設された債権者委員長口座の名義人は、「株式会社X債権者委員長Y1」であり、届出印は被告Y1の個人印であるし(平成八年一月二九日嘱託に係る調査嘱託の結果、≪証拠省略≫)、(5) 平成四年四月一六日付けで原告の債務者に対して売掛金の回収に関して発せられた「ご案内」と題する文書の差出人は、「株式会社X債権者委員長Y1」である(≪証拠省略≫)。これらの事実を総合すると、原告から本件債権回収等を委任されたのは被告Y1個人であって、被告会社ではないことが明らかというべきである。

二  被告Y1の委任事務の終了

平成六年一二月三一日、被告Y1が、債権者委員会が決定した配分方法に従い、原告の一般債権者に対する配当(弁済)を行った事実は、当事者間に争いがなく、右事実に被告Y1及び原告代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、右配当の実施により、主要な債権者ないし債権者委員会の同意の下に進められていた原告の任意整理に関し、被告Y1に委任された本件債権回収等の事務は終了したものと認めるのが相当である。

被告Y1は、右配当の実施に当たり、残債権の放棄を拒否した債権者がいたことや、住金物産に対する配当については追加支払を必要とする事態が生ずる可能性があったことを指摘して、本件債権回収等は終了していないと主張するけれど、≪証拠省略≫、被告Y1及び原告代表者の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、右配当の実施について不満を述べて、債権者委員長である被告Y1に追加配当の実施を求める者がいるなどの事情は、全くうかがわれない上、住金物産の原告に対する債権に関しては、同社が原告の日本鋼材加工センター株式会社に対する債権につき、仮差押命令を得ていることを考慮した上で、平成六年一〇月二五日、債務弁済契約が締結され、同契約に従った債務の弁済も完了しているものと認められる。被告Y1の右主張は失当というべきである。

したがって、被告Y1は、本件債権回収等の終了に伴い、委任事務の処理に当たり受領した金員から、委任の趣旨に従って正当に支出した費用を控除した金員が残存している場合には、これを原告に返還すべき義務がある。

三  被告Y1による債権回収額

証拠(後記各証拠のほか、被告Y1及び原告代表者各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1 被告Y1は、原告のためにその債務者から回収した金員を入金するために、株式会社大東銀行支店に債権者委員長口座を開設し、これを管理していたが、債権者委員長口座には、2に認定するC弁護士から振り込まれた合計七二六四万九五七九円を除いても、平成四年四月一六日から平成五年五月二〇日までの間に、原告が主張する三億二一五二万〇四八五円を上回る金員が入金されていることが認められる(平成八年一月二九日嘱託に係る調査嘱託の結果、≪証拠省略≫)。そして、被告Y1自身が、平成五年五月二〇日付けで、同日までに、債権者委員長口座に入金された債権回収金額が三億二一五二万〇四八五円になる旨の収支計算書(≪証拠省略≫)を原告代表者に交付していることや、本件全証拠を精査しても、本件債権回収等と関係のない金員が債権者委員長口座に入金されたことはうかがわれないことを考慮すると、被告Y1は、本件債権回収等の事務を処理するに当たり、原告が債権者委員長口座への入金分として主張する三億二一五二万〇四八五円を受領したものと認めることができる。

2 被告Y1は、任意の支払が困難であることが予想される債務者からの債権の回収については、これをC弁護士に委任し、同弁護士は、原告のためにこれらの債務者から回収した金員から同弁護士が受領すべき報酬額を控除して、請求原因4の(一)の(2)記載のとおり、合計七二六四万九五七九円を債権者委員長口座に振り込んだことが認められる(平成八年一月二九日嘱託に係る調査嘱託の結果、≪証拠省略≫)。

3 被告Y1は、本件債権回収等の事務を処理するに当たって、原告代表者から少なくとも三〇〇万円を受領していることが認められる(≪証拠省略≫)。

この点につき、原告は、自らの手で債権の回収を図った上、合計一二〇〇万円を被告Y1に交付した旨を主張し、原告代表者の供述中には、右主張に沿う部分があるが、他に右主張を裏付ける証拠はなく、右供述のみによって、原告が右三〇〇万円を超える金員を被告Y1に交付したと認めるには足りないものというべきである。

他方、被告Y1は、原告代表者は、原告自らが債務者から回収した金員を債権者委員会の決定に従った配当に回さない見返りとして、右三〇〇万円を同被告に交付したものであるとの趣旨の供述をするが、その供述するところによっても、被告Y1において右三〇〇万円を取得することができると解することはできない。

4 河鰭弁護士は、被告Y1から、日本商工ファクター株式会社に対する配当金として七八万円を預託されたが、その配当を実施しなかったため、株式会社大東銀行東京支店振出しの小切手を同被告に交付して、これを返戻したことが認められる(≪証拠省略≫)。

以上の1から4に認定したところによれば、被告Y1は、原告から委任を受けた本件債権回収等の事務を処理するに当たり、合計三億九七九五万〇〇六四円を受領したものと認められる。

四  被告Y1による支出額

原告は、被告Y1がその委任事務を処理するに当たり、請求原因4の(二)の(1)から(8)の合計二億九一五八万四六八〇円を、委任の趣旨に従って正当に支出したことを自認しているところ、被告Y1は、それ以外にも委任事務を処理するに当たり必要な支出をし、又は支出をする必要がある旨を主張するので、以下において検討する。

1 住金物産に対する未払金について

住金物産の原告に対する債権に関しては、平成六年一〇月二五日、債務弁済契約が締結されていると認められることは、前記認定のとおりであるが、≪証拠省略≫(債務確認弁済契約書)には、同社が原告の日本鋼材加工センター株式会社に対する債権を取り立てることができなかった場合には、原告が住金物産に追加配当をする旨の合意は記載されておらず、本件全証拠を精査しても、被告Y1が主張するような追加配当の合意がされた事実を認めるに足りる証拠はない。

2 債権者Dに対する追加配当について

被告Y1は、原告が認める五〇〇万円の配当以外にも、Dに対して六〇〇万円を追加して配当した旨を主張し、右金員の支払を立証するものとして≪証拠省略≫の三通の領収証を提出する。

しかし、≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨(原告の平成九年一〇月三一日付け証拠説明書二の9参照)によると、≪証拠省略≫は、平成五年三月二三日に開催された債権者委員会の会合に出席した債権者に、慰労金等と称してそれぞれ五万円を支払った際にDから受け取った領収証に改ざんを加えたものといわざるを得ない。そして、≪証拠省略≫及び被告Y1本人尋問の結果によれば、被告Y1は、Dに対し、原告の債務の弁済として合計六〇〇万円(原告が自認する金額に一〇〇万円を加算した額)を支払ったことまでは認められるが、これを超えた支払をしたことを認めるに足りる証拠はない。

なお、被告Y1本人尋問の結果によると、Dは、原告に対する債権者である京都の金融業者の代理人と称して債権者委員会に出席し、強引な要求等を行っていたこと、そのため、被告Y1は、Dに対し、債権者委員会の決定した配分方法よりも優遇する措置を執ったことが認められるが、他の債権者の同意の下に、債権者委員長に債権の回収や配当等の事務を委任して、いわゆる任意整理を行う場合には、右委任に当たって、債権者委員長には、任意整理の趣旨に反しない範囲で相応の裁量を認められているものと解するのが相当である。そうであれば、被告Y1が、Dに対し、原告の債務の弁済として支払った右六〇〇万円については、なお委任の趣旨に従った支出と認めることができる。

3 被告Y1の報酬について

証拠(後記各証拠のほか、被告Y1及び原告代表者の各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、(1) 被告Y1は、原告代表者に対し、平成五年五月二〇日ころ、原告の売掛金債権の回収が慨ね完了したことを前提として、回収金額の一割に相当する三八一一万円を同被告に対する報酬として支払うことを要求していたこと(≪証拠省略≫)、(2) 同被告は、平成五年八月二三日債権者委員長としての報酬及び諸経費への充当金として三七五〇万円を受領した旨の確認書を原告宛てに差し入れたこと(≪証拠省略≫)、(3) 同被告は、C弁護士が平成五年一一月二日債権者委員長口座に振り込んだ前記一二九六万七五六〇円のうち、その半額に相当する六四八万三七八〇円を原告に交付する見返りとして、同被告において残りの六四八万三七八〇円を受領することを申し出て、債権者委員長口座からその支払を受けたこと(平成八年一月二九日嘱託に係る調査嘱託の結果、≪証拠省略≫)、(4) 原告代表者は、これら被告Y1の要求ないし申出を明確に拒否することはなかったことが認められる。

しかし、これらの事実によっても、原告代表者と被告Y1との間で、被告Y1に対する報酬の支払に関し、同被告が主張するような合意が成立したとまでは認めるに足りないものというべきである。しかも、≪証拠省略≫、被告Y1及び原告代表者の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告Y1は、原告の主要債権者の同意の下に、本件債権回収等を委任されたものであり、右委任の経緯、趣旨にかんがみると、被告Y1に対する報酬の支払についても、他の債権者らの同意を必要とすることが黙示的に合意されていたと解するのが相当であるところ、被告Y1に対する報酬の支払については、他の債権者らの明示の同意を得ていないことが明らかである上、被告Y1が報酬として受領した旨を主張する金額は、被告Y1本人尋問の結果によって認められる被告Y1が行った業務の内容と対比してみても、著しく高額で、相当性を欠くことが明らかな金額であって、このような高額の報酬を被告Y1が受領することは、原告の他の債権者が到底容認しないところというべきである。のみならず、被告Y1が、本件債権回収等の実施に当たり、原告のために預かり保管中の金員を被告会社のために流用したことは後記認定のとおりであり、このような不法行為を行った者が、適正に委任事務を処理した場合に初めて支払われるべき性質の報酬の支払を請求できる理由のないこともいうまでもない。

4 事務所の賃料、内装費及び原状回復費用について

≪証拠省略≫、被告Y1及び原告代表者の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、(1) 被告会社は、平成四年二月一日、中尾ビルの一室を被告会社の事務所として賃借したこと、(2)被告Y1は、同年四月、原告から本件債権回収等を委任されたため、その事務の処理に必要な書類等を右事務所において、預かり保管していたこと、(3)原告の債権者委員会の会合は、合計一〇回開催されたが、そのうちの何回かが右事務所において開催されたことが認められる。

右事実関係によれば、被告会社が右事務所を賃借した時期は、被告Y1が原告のために本件債権回収等を行うようになる以前のことであって、同事務所が原告のために本件債権回収等を行う目的で賃借されたものではないことは明らかである上、右に認定した使用の程度ないし使用の頻度にかんがみれば、原告において、右事務所の賃料、内装費及び賃貸借契約終了時に被告会社が負担した原状回復費用を負担すべきものと解することはできない。

5 債権者委員会の会合費その他の雑費について

被告Y1は、債権者委員会の会合費及びその他の雑費として一一一四万七〇〇九円という多額の支出を要した旨を主張するが、右主張は、具体性に欠け、主張自体失当というべきである。

もっとも、≪証拠省略≫によれば、被告Y1は、本件債権回収等のために四〇万円余りの金員を支出していることが認められる(なお、被告Y1は、右≪証拠省略≫のほかにも領収証を証拠として提出するが、(1) ≪証拠省略≫は、原告の債権者との間で相殺処理をした際の領収証であること、(2) ≪証拠省略≫は、その趣旨が不明であること、(3) ≪証拠省略≫は、領収証の宛名が異なること、(4) ≪証拠省略≫は、領収証の宛名が被告Y1個人となっていて、本件債権回収等の事務との関連性が明らかでないこと、(5) ≪証拠省略≫については、原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により、原告がその従業員によって自ら債権の回収を行い、回収した金員を被告Y1に交付する際に、集金のための諸経費として予め差し引いた金員等に係る領収証であり、被告Y1が預かり保管中の金員から支出されたものではないものと認められることから、右各書証に基づき、被告Y1が本件債権回収等のために金員を支出した事実を認定しなかった。)。

しかし、≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告Y1から交付を受けた平成五年五月二〇日付けの収支計算書に計上されている五〇万円の債権者委員会会議費の支出につき、委任の趣旨に沿った正当な支出に当たることを自認しているところ、右に認定した支出金額は右五〇万円の範囲内の金額であることからすると、原告が自認する右五〇万円以上に、被告Y1が、債権者委員会の会合費及びその他の雑費を支出したものと認めるには足りないものというべきである。

以上の1から5に認定したところによれば、被告Y1が委任の趣旨に従って正当に支出した旨を主張する金員のうち、これを首肯することができるのは、Dに対し、原告が自認する五〇〇万円に加えて一〇〇万円支払った事実にとどまるものというべきである。

五  以上に認定説示したところによれば、被告Y1は、原告に対し、委任契約の終了に伴い、本件債権回収等の処理に当たって受領した三億九七九五万〇〇六四円から、委任の趣旨に従って、正当に支出した二億九二五八万四六八〇円を控除した一億〇五三六万五三八四円を返還すべき義務を負うものというべきである。

したがって、原告の民法六四六条に基づく請求は、被告Y1に対し、一億〇五三六万五三八四円の支払を求める限度で理由があり、被告Y1に対するその余の請求及び被告会社に対する請求は理由がないものというべきである。

(不法行為に基づく請求について)

六 債権者委員長口座からの金員の流用について

被告Y1が原告のために管理していた債権者委員長口座から別表進行番号1から65記載のとおりに金員が払い出されたこと、被告会社名義で開設された、東京三菱銀行秋葉原支店、同銀行東秋葉原支店、あさひ銀行秋葉原支店、城南信用金庫神田支店又は兵庫銀行東京支店の各預金口座に同表備考欄記載の入金があったことは、当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫、被告Y1本人尋問の結果によれば、同被告は、自らが管理していた債権者委員長口座に入金された金員を、自らが代表取締役の地位にあった被告会社の手形決済資金等に流用したことがあったこと、その総額は、概算で三億円程度になることが認められる。

そこで、被告Y1が、債権者委員長口座に入金された金員の中から総額三億円程度を被告会社のために流用したとの事実を前提として、別表1から65記載のとおり債権者委員長口座から払い出された金員のうち、被告会社の運転資金等として流用されたと認められる部分について個別に検討する。

1  被告Y1は、別表進行番号2、5、18、21、22、23、26、37、54及び56の「フリコミ」欄記載の合計一億六四〇〇万円を、同表「備考欄」記載のとおり、債権者委員長口座から被告会社の銀行預金口座に振り込んだことは当事者間に争いがない。

2  債権者委員長口座から、別表進行番号1、3、8、20、25、30、33、46及び47の「CDシハライ」欄又は「その他」欄記載のとおりの金員が払い出され、「備考欄」記載のとおり、各払出しの当日に、払い出された金額と同額又はこれを若干下回る金額の金員が被告会社の銀行預金口座に振り込まれていることが明らかであって(なお、被告会社の銀行預金口座への入金が振込みによるものであることについては、平成九年一二月二五日嘱託に係る東京三菱銀行秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、同日嘱託に係る同銀行秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、≪証拠省略≫)、特段の反証のない限り、債権者委員長口座から払い出された右各金員は、被告Y1によって、被告会社の銀行預金口座に振り込まれたものと推認することができる。

被告らは、同表進行番号25の「CD欄」記載の金員の払出しについては、現金自動預払機を利用して債権者委員長口座からの金員の払出しが行われていることからみて、被告Y1が個人的に右金員を費消したものとみるべきであると主張するけれど、現金自動預払機を利用して金員の払出しを行ったという事実は、被告Y1が個人的に右金員を費消したことをうかがわせるものとはいえず、被告会社が指摘する右事実によって右推認を覆すには足りない。

3  債権者委員長口座から、別表進行番号4、7、19、24、27、44及び55の「CDシハライ」欄又は「その他」欄記載のとおりの金員が払い出され、「備考欄」記載のとおり、各払出しの当日に、払い出された金額と同額又はこれを若干下回る金額の金員が被告会社の銀行預金口座に入金されていることが明らかであって、特段の反証のない限り、債権者委員長口座から払い出された右各金員についても、被告Y1によって、被告会社の銀行預金口座に入金されたものと推認することができる。

被告らは、同表進行番号7、24、27、44及び55の「CD欄」記載の金員の払出しについては、現金自動預払機を利用して債権者委員長口座からの金員の払出しが行われていることからみて、被告Y1が個人的に右金員を費消したものと考えるべきであると主張するけれど、右事実が右推認を覆すに足りないことは、2において説示したのと同様である。また、被告会社は、同7、24、27、44及び55の「備考欄」記載の入金については、現金自動預払機を利用して右各入金の手続が執られており、19の「備考欄」記載の入金については窓口で現金を入金する手続が執られており、いったん債権者委員長口座から払出しを受けた現金をわざわざ他行まで持参した上で入金の手続を執るなどということは不自然であり、債権者委員長口座から払い出された金員が、被告会社の銀行預金口座に入金されたとは考え難いと主張する。しかし、右のような入金手続を執ることが不自然であるとはいえず、むしろ、右各入金の手続は、入金口座が開設されている銀行の現金自動預払機又は窓口において行われていることからすると(平成九年一二月二五日嘱託に係る東京三菱銀行秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、同日嘱託に係る同銀行東秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、同日嘱託に係るあさひ銀行秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、≪証拠省略≫)、振込手数料を節約するために、そのような入金方法を執ることは十分に考えられるところであり、被告会社が指摘する右事実によって右推認を覆すに足りない。

4  債権者委員長口座から、別表進行番号6の「その他」欄記載のとおりの二〇〇万円が払い出され、「備考欄」記載のとおり、右払出しの当日に、四〇〇万円が三菱銀行秋葉原支店の被告会社の預金口座に振り込まれていることが明らかである(なお、被告会社の右預金口座への入金が振込みによるものであることについては、平成九年一二月二五日嘱託に係る東京三菱銀行秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、≪証拠省略≫)。被告会社の右預金口座に振り込まれた金員の額が、債権者委員長口座から払い出された金員の額を上回るとはいえ、債権者委員長口座から払い出された二〇〇万円は、被告Y1によって、被告会社の右預金口座に振り込まれた四〇〇万円の一部に当てられたものと推認するのに妨げないものというべきである。

5  別表15から17の「その他」欄記載のとおり、平成四年七月二日から九日の間に三回に分けて合計四八〇〇万円が債権者委員長口座から払い出され、同月一三日、四〇〇〇万円が三菱銀行秋葉原支店の被告会社の預金口座に振り込まれていること、同表28の「その他」欄記載のとおり、同年九月二日、一二〇〇万円が債権者委員長口座から払い出され、同月四日、一〇〇〇万円が同銀行同支店の被告会社の預金口座に振り込まれていることが明らかである(なお、被告会社の右預金口座への入金が振込みによるものであることについては、平成九年一二月二五日嘱託に係る東京三菱銀行秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、≪証拠省略≫)。右振込みについては、債権者委員長口座からの払出しの日と被告会社の右預金口座への振込みの日が若干相違している上、払出金額と振込金額も相違しているものの、被告らは、四八〇〇万円又は一二〇〇万円という多額の金員の使途について具体的な主張を全くしていないことからすると、債権者委員長口座から払い出されたこれらの金員についても、右のとおり、被告会社の右預金口座に振り込まれたと推認することができる。

6  平成八年一月二九日嘱託に係る調査嘱託の結果、平成九年一二月二五日嘱託に係る東京三菱銀行秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、≪証拠省略≫、被告Y1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告Y1は、別表40記載のとおり、平成四年一一月五日、債権者委員長口座から三〇〇〇万円の払出しを受け、原告が競売手続の処理に関して必要としていた三〇〇〇万円の支払に当てるために、これを原告に交付したこと、原告は、後日右三〇〇〇万円を被告Y1に返済したが、被告Y1は、これを債権者委員長口座に入金することなく、同月一八日、東京三菱銀行秋葉原支店の被告会社の預金口座に入金したものと認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

7  平成九年一二月二五日嘱託に係る東京三菱銀行秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、同日嘱託に係る同銀行東秋葉原支店に対する調査嘱託の結果、≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によると、別表進行番号9の「備考欄」記載の一一〇〇万円の入金及び同39の「備考欄」記載の二〇〇万円の入金は、それぞれ証券類による入金であること、同38の「備考欄」記載の一〇〇万円(平成四年一〇月一二日に東京三菱銀行秋葉原支店の被告会社の預金口座に入金された一三〇万円の内金)の入金は代金取立金の入金であることが認められ、これらについては、債権者委員長口座から払い出された金員が各入金の原資となったことは認めるに足りないものというべきである。

8  債権者委員長口座から払い出された別表記載のその余の金員については、これが、被告会社のために流用されたと認めるに足りる証拠はない。原告は、債権者委員長口座から払い出された金員のうち、原告のために用いられたと認められるもの以外の使途不明金は、被告会社のために流用されたと推認すべきであると主張するが、右主張は採用し難い。

右1から8に認定説示したところによれば、被告Y1は、債権者委員長口座から払出しを受けた金員のうち、合計三億一二五五万円を被告会社の銀行預金口座に入金したものと認めらる。

七 被告らの不法行為責任について

1  右六に認定した事実関係に加え、被告Y1が、債権者委員長口座に入金された金員を一時自己又は被告会社のために使用することを許されていたとの事情は認め難い上、被告Y1において、被告会社のために流用した金員を遅滞なく補填する意思と資力を有していたとの事実もうかがわれないことを考慮すれば、被告Y1は、原告のために管理する債権者委員長口座から、その委任の趣旨に反し、ほしいままに、金員の払出しを受け、そのうち合計三億一二五五万円を被告会社の銀行預金口座に入金し、これを横領したものというほかはない。被告Y1が、これによって原告が被った損害を賠償すべき義務を負うことは明らかである。

2  そして、被告Y1は、右行為の当時、被告会社の代表者の地位にあったのであるから、被告会社は、被告Y1が委任の趣旨に反して、債権者委員長口座から払出しを受けた金員であることを知りながら、これを法律上の原因なくこれを受領し、自己の運転資金として使用したものといわざるを得ず、被告会社もまた、不法行為責任を免れないものというべきである。被告会社が、右のようにして入金された金員について、被告Y1からの仮受金として経理処理をしていたという事情は、右の判断を左右するものではない。

八 損害の補填について

そこで、被告らの右不法行為による原告の損害のうち、原告が自認する二億〇七七一万五三七八円を上回る金額が補填されたものと認められるかどうかについて検討する。

被告らは、(1) 平成五年四月二七日、被告Y1の普通預金口座に五〇〇〇万円を入金したこと、(2) 同年五月一七日、同じく、被告Y1の普通預金口座に一億円を入金したこと、(3) 同年九月一六日、約束手形四通、額面合計三七五〇万円を原告に交付し、かつ、これを被告会社の出捐により決済したこと、(4) 平成六年一〇月五日、原告の住金物産に対する債務の弁済として一億円相当を出捐したことをもって、原告の損害を補填した旨を主張するにとどまる。右(3)及び(4)については、原告において、これが損害の補填に当たることを自認しているところであり、(1)及び(2)のとおり被告Y1の右普通預金口座に入金された金員については、原告が自認する七〇二一万五三七八円以外に、原告の債権者に対する支払等に当てられた金員のあることについての主張・立証がない。そして、被告会社が、被告Y1個人の右普通預金口座に金員を入金したからといって、原告の損害が補填されたと解することができないことは明らかというべきである。なお、被告Y1の供述中には、他にも被告会社から出捐をしてもらって、原告の債権者に対する弁済等を行ったことをうかがわせる供述部分もないわけではないが、これらの点については、被告らにおいて、いまだ的確な主張・立証を尽くしていないものというほかはない。

したがって、被告らは、六に認定した三億一二五五万円から二億〇七七一万五三七八円を控除した一億〇四八三万四六二二円を、その共同不法行為による原告の損害として賠償すべき義務があるものというべきである。

(結論)

以上に認定説示したところによれば、原告の被告Y1に対する請求は、民法六四六条に基づき一億〇五三六万五三八四円を請求する限度で(選択的に主張する民法六四六条に基づく請求又は不法行為に基づく請求のうち、認容金額が多額となるもの)、被告会社に対する請求は、不法行為に基づき一億〇四八三万四六二二円の支払を求める限度で理由があるものということができるから、これをそれぞれ認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条、六四条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 綿引万里子)

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